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特集:美しい日本の棚田 特集:美しい日本の棚田

浜野浦の棚田 (佐賀県)/青田の頃7月中旬

写真家の森田敏隆さんが棚田を撮り始めたのは20年前。
当時は駐車場やトイレといった施設はもちろん、案内看板もなかったそうです。
棚田の魅力に気付き、観光資源として自治体や市町村が力を入れ始めたのは、それからしばらく経ってから。
今では多くの観光客が棚田を訪れるようになりました。
棚田は自然がつくる風景ではなく、人の手でつくられているということ。
これからも美しい棚田を眺めるために考えなければならないことがたくさんあります。

撮影/森田 敏隆
文/クラス エル マガジン編集部
協力/NPO法人 棚田ネットワーク

田んぼに魅せられた旅

1999年に農林水産省が「日本の棚田百選」を発表した時、面白そうだと思って現場調査からはじめました。手始めに農水省から、青焼きと呼ばれる複写された地図を取り寄せました。しかし、あまりに山の中なので、地図は全く役に立ちません。辺りには看板もなく、土地の人に聞いても「知らないよ、そんな田んぼ」と言われたりしました。そう言った本人が棚田の地主さんで、自分で自分の棚田を分かっていないという笑い話もありました。1年間で全134カ所を周り、翌年に写真集『棚田百選』を出版しました。

棚田の魅力は法面のりめんと呼ばれる階段状の斜面です。法面は、山を切り開いた時に出る土で作った土坡どはと、石を積んで作る石積みと2種類あります。私は石積みが好きです。ところが近頃は石積みを直す職人が少なくなりました。その職人がいなくなったら、もう直せなくなってしまいます。ひとつの田んぼが崩れると、全ての田んぼが崩れてしまうのです。土坡にしても、くわひとつで見事に土手を塗り、あぜを作る職人のような「おばちゃん」たちに支えられています。

私が一番きれいな時期だと思うのは、田おこしで水を張った時から早苗までです。青田になると、伸びた稲に隠れて、畦が見えなくなってしまいますから。棚田というのは訪れるたびに発見があります。きれいな棚田の写真を見みてもらって、多くの方が興味を持ってくれればいいと思います。

(談/森田 敏隆)

森田敏隆(もりたとしたか)

森田 敏隆(もりたとしたか)

カメラマン。日本写真家協会会員。1946年大阪府八尾市生まれ。
(株)エムオーフォトス代表取締役。

日本の自然、四季、草木、花のある風景などを撮影し、その美しく叙情的な作品は多くの人を惹きつけている。また、国立公園を撮り続けて50年。 国立公園関係の写真集37冊を出版。 2008年、北海道洞爺湖サミットで配布された環境省のオフィシャルブック『NATIONAL PARKS of JAPAN』は、各国首脳・外交団に贈られた。 『日本の国立公園』(全4巻)、『日本列島花百景』、『一本桜』、『棚田百選』など写真集多数。

浜野浦の棚田(佐賀県)

青田の頃 7月下旬

界灘と棚田が美しい風景を作り出す夕日の名所。2011(平成23)年には、佐賀県主催の「22世紀に残す佐賀遺産」に選ばれました。浜野浦海岸に流れ込む浜野浦川によって形成された浸食谷に築かれた棚田です。

所在地
佐賀県東松浦郡玄海町浜野浦
お問合せ
TEL.0955-52-2199
(玄海町産業振興課)
平均勾配
1/7
耕作規模
11.5ha·283枚
駐車場
39台
トイレ
あり
展望台
あり

東後畑ひがしうしろばた棚田(山口県)

代掻しろかきの頃 4月中旬

戸時代、長州藩が財政立て直しのために田畑の開作を奨励し、この辺りは全国でも有数の棚田地帯となりました。東後畑の棚田は眼下に日本海を望む絶景の地にあり、代掻しろかき時期の夕景は水面が茜空に染まります。

所在地
山口県長門市油谷後畑
お問合せ
TEL.0837-23-1137
(長門市観光課観光振興係)
平均勾配
1/15
耕作規模
7ha・210枚
駐車場
30台
トイレ
あり
展望台
あり

大浦の棚田(佐賀県)

田植えの季節 4月下旬

万里湾を見下ろす高台に開けた風光明媚な棚田です。大小の水田が美しい曲線を描きます。大浦の棚田は、鎌倉時代から江戸時代にかけて築かれ、かつては藩の献上米を作っていた由緒ある土地でもあります。

所在地
佐賀県唐津市肥前町大浦地区
お問合せ
TEL.0955-53-7145
(唐津市肥前市民センター 産業課)
平均勾配
1/5
耕作規模
32.7ha・約900枚
駐車場
3台 ※展望台付近の路肩に駐車可能
トイレ
あり
展望台
あり

花坂の棚田(新潟県)

実りの頃 9月上旬

奥の棚田から望むと、畦模様と妙高連峰を遠望する景観がすばらしい棚田です。初雪の頃までは、美しい畦模様が楽しめます。渓流沿いに階段状に連なり、急傾斜地を巧みに利用した不規則な形状が美しい棚田です。

所在地
新潟県柏崎市高柳町石黒
お問合せ
TEL.0257-41-2241
(柏崎市高柳町事務所地域振興班)
平均勾配
1/6
耕作規模
8.8ha・48枚
駐車場
なし
トイレ
なし
展望台
なし
※展望台は無いが、舗装道路の奥まで行くと眺望が良い

蘭島あらぎじま(和歌山県)

青田の頃 7月中旬

拓当時の姿がそのまま残り、展望台から眺めるとホタテ貝のような形をした全容を眺めることができます。早苗の水面に空と雲が映りこむ初夏、実る稲穂の夏、黄金色の実りの秋、初雪の頃、と四季折々に楽しめます。

所在地
和歌山県有田郡有田川町清水
お問合せ
TEL.0737-25-2111
(有田川町役場清水行政局産業振興室)
平均勾配
1/12
耕作規模
2.34ha·54枚
駐車場
30台
トイレ
あり
展望台
あり

田植の季節 5月中旬

稲刈りの頃 9月中旬

雪景色 2月上旬

丸山千枚田(三重県)

青田の頃 6月上旬

在1,340枚の規模を誇る「百選」を代表する棚田のひとつです。400年前には2,240枚の田畑があったという記録がありますが、530枚まで減ってしまいました。「丸山千枚田保存会」などの活動により復元されました。

所在地
三重県熊野市紀和町丸山
お問合せ
TEL.0597-97-0640
(熊野市ふるさと振興公社)
平均勾配
1/4
耕作規模
7.2ha・1340枚
駐車場
4〜5台
トイレ
あり
展望台
あり

広内ひろうち上原うえばるの棚田(福岡県)

稲刈りの頃9月中旬(2006年撮影)

垣が137段も山の頂上まで積み上げられ、石垣の高さより田んぼの幅が狭いといわれます。秋に刈り取られた黄金色の稲穂が、棚田の全てで稲架掛はさかけされる光景は圧巻です。

※広内・上原地区の棚田は2012年7月の九州北部豪雨で甚大な被害を受けました。学生、企業、全国のボランティアの協力を受け復旧作業を行ない、2017年5月に水利工事が完了しました。

所在地
福岡県八女市星野村広内
お問合せ
TEL.0943-52-3114
(八女市役所星野支所建設経済課)
平均勾配
1/4
耕作規模
12.6ha·425枚
駐車場
8台
トイレ
あり
展望台
あり

白米しろよね千枚田(石川県)

イルミネーションイベント「あぜのきらめき」(10月中旬〜3月中旬)

の名勝に指定されてる有名な棚田です。早苗の緑が青い海と美しいコントラストを見せ、夕日が水面を染めながら日本海に日が落ちます。10〜3月はイルミネーションイベント「あぜのきらめき」が開催されます。

所在地
石川県輪島市白米町
お問合せ
TEL.0768-23-1146
(輪島市交流政策部観光課)
平均勾配
1/4
耕作規模
4ha・1004枚
駐車場
51台
トイレ
あり
展望台
あり

大蕨おおわらびの棚田(山形県)

稲刈りの頃 9月中旬

北地方独特の稲の天日干し風景。稲を掛けた杭が約二千本も整然と並ぶ様は山辺町の代表的な景観として知られ、杭4本分が約1俵になるといわれます。稲刈り時期の9月は、すでに山霧が下りてきます。

所在地
山形県東村山郡山辺町大蕨
お問合せ
TEL.023-666-2113
(山辺町役場中支所)
平均勾配
1/7
耕作規模
13ha・90枚
駐車場
なし
※近くの公民館・役場支所の駐車場を利用可能。10台程度。
トイレ
あり
展望台
あり

和佐父わさぶ西ヶ岡の棚田 (兵庫県)

雪景色の頃 2月中旬

の棚田の歴史は平安時代までさかのぼるとされます。千メー卜ル級の山々に囲まれたこの地は、夏は昼夜の寒暖差が大きく、冬は積雪が1メートルを越えます。真綿を被ったような雪景色と曲線美に魅了されます。

所在地
兵庫県美方郡香美町村岡区和佐父
お問合せ
TEL.0796-94-0123
(香美町村岡観光協会)
平均勾配
1/3
耕作規模
6.9ha・126枚
駐車場
なし
※和佐父地区公民館前駐車場を利用可能。
トイレ
なし
展望台
なし

棚田見学のご注意: 田畑は基本的には私有地であり、農業生産の場ですので、畦や農道、水路へは立ち入らないでください。農作業の妨げになる行為はしないでください。ゴミの放棄はしないでください。自分で出したゴミは必ず持ち帰りましょう。車は駐車場や駐車帯に停めてください。農耕車優先です。農道への車の乗り入れや、すれ違いの出来ない場所ではの駐車はしないでください。山菜・野菜やきのこ、山野草の採取は禁止です。火気の取扱いには十分に注意してください。地元の方に会ったら挨拶しましょう。

守りたい日本の原風景

棚田。山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた田んぼ。総面積は約22万ヘクタール、日本の水田全体の8%といわれます。

棚田ネットワークは1995年に発足したNPO団体です。このNPOが棚田をサポートするのは、棚田は米を作るだけの場所ではないからです。

もともと農業や農村には、農作物を生産する以外に、国土や水源の維持、生態系の保全など「多面的機能」と呼ばれる役割がありました。棚田地域は農産物の生産量は多くありませんが、この多面的機能がとても優れているのです。

地滑り地帯に開かれることが多かった棚田は、土砂災害を防ぎ、森や小さな川に近いことで生き物のすみかにもなってきました。そして、祖先から受け継いだ田を守ろうとする農家の継続する営みが、あの景観を生み出してきました。田を起こし、水を張り、畔を作り、草を刈る…。平坦地の水田より厳しい仕事を重ねて棚田を耕し続けてきた人々。景観の美しい有名な棚田も無名の地味な棚田も、果たしている役割は同じです。

最近は、棚田を舞台としてさまざまな活動が行われる新しい展開が見えてきました。棚田を中心に人やアイデアが集まるという流れは、ひとつの希望でもあります。

棚田が果たしている多様な役割にあらためて目を向け、評価し、守り続ける方策を考えていきたいものです。

特定非営利活動法人 棚田ネットワーク

1995年12月に〈棚田支援市民ネットワーク〉としてスタート。
中心になったのは棚田の荒廃に危機感を抱いた都市住民で、目指したのは「手伝ってほしい人(棚田農家)と手伝いたい人(都市住民)をつなぐ」こと。 2002年8月には東京都から特定非営利活動法人の認証を受け、現在は「棚田地域での農作業体験・援農活動や、 都市地域での棚田の多面的機能に関する普及活動」など、さまざまな棚田支援活動を展開しています。

特定非営利活動法人 棚田ネットワーク
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-18-16-704
HP:https://tanada.or.jp
TEL&FAX:03-5386-4001 E-mail:info@tanada.or.jp
受付:月~金 13:00~18:00(祝日を除く)

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