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特集:美しき競馬 特集:美しき競馬

取材協力/日本中央競馬会  文/坂嵜 透  撮影/井上 誠

高度成長の終焉を迎えた1970年代の日本に彗星の如く現れた、ハイセイコー。昭和から平成への激動を駆け抜けた、オグリキャップ。21世紀の日本競馬の象徴となった、ディープインパクト。

いつの時代にも、時代を代表する名馬がいました。彼らが演じる筋書きのないドラマに、ファンは熱狂し、時に涙してきました。
しかし、その表舞台で演じられるドラマは、競馬という巨大な氷山のほんの一角。その舞台裏には、決して脚光を浴びることのない、絶え間ない人馬の営みがあります。それが一層、競馬を愉しくするのです。

競馬の愉しみ

「日本ダービー」の名で聞こえる「東京優駿」。3歳馬の頂点を決めるこのレースは、馬の一生で一度だけのチャンスであり、競馬のロマンの象徴として、競馬ファンでなくとも知るところではないでしょうか。

しかし、この輝かしい舞台に出られるのは、一年間に生産される7千頭近い競走馬のうち、わずか18頭のみ。全体の約8割は、1勝もできないまま、競馬場を去っていくのです。そんな無名の馬たちにも、それぞれの物語があります。

競走馬の一生は、生産牧場に始まります。春から初夏に生まれた仔馬は、約1年かけて基礎体力づくり。その後、育成牧場に移り、人を乗せることを徐々に覚えていきます。そして2歳になり、騎乗運動が十分にできるようになった馬は、トレーニング・センターに入厩。調教師の管理のもと、競走馬として本格的なトレーニングを積み、デビューを待つのです。

東京競馬場

東京競馬場

忘れてはならないのが、馬主の存在です。競走馬の売買には、馬主と生産者との直接取引と、セリ市での市場取引があります。今や海外からも注目を集める日本のセリ市は、超一流の良血馬には億を超える値が付きます。話題に上るのは高額のエリートホースばかりですが、その評価額に関わらず馬主に見初められた馬たちは、競走馬として同じスタートラインに立つ資格を手にすることになります。

競走馬たちの初舞台、新馬戦の幕開けは初夏。緑眩しい東京競馬場や阪神競馬場で、初々しくも壮絶なドラマが始まります。若き馬たちは背中に、それまで携わった多くの人々の思いを乗せて走るのです。

「競馬が人生の比喩なのではない。人生が競馬の比喩なのだ」と言ったのは歌人・寺山修司。これほど競馬が人を夢中にさせるのは、ギャンブルという概念では語ることのできない、大きなロマン。それは、血統と人の記憶によって、未来へ継がれていく——。競馬の愉しみは尽きません。

東京競馬場

東京競馬場

騎手 戸崎圭太

騎手:戸崎圭太

2014年以降、3年連続の年間最多勝。いわゆるリーディングジョッキーとして君臨する戸崎騎手が、JRAの騎手になったのは2013年のこと。わずか4年前のことです。

乗馬体験でしか馬に触れたことのなかった少年時代。小柄で運動神経に優れた戸崎少年は、高校受験前に騎手という職業があることを知ると、直感的に競馬学校の門を叩きます。ところが当時、JRAの存在を知らなかった戸崎少年が入ったのは地方の競馬学校。そして大井競馬場の騎手として、1998年にデビューするのです。

「やめたいと思ったことは一度もなかった」という意志を支えたのは、「とにかくトップになりたい」という向上心。大井競馬のトップジョッキーとなった戸崎騎手が、より大きな舞台へと向かうのは必然でした。

紆余曲折の道を登りつめて頂点に立った戸崎騎手。「良い馬に乗せてもらって今がある。人に恵まれて幸せ」と語ります。有力馬に乗ることは人気と同量の重圧を背負うことでもありますが、「気持ちの切り替えは上手な方。終わったらすぐ次のレースに集中します。反省するのは後でまとめて(笑)」。結果が出なければ、期待は野次となり一身に。それさえも「応援だと受け止めます」と励みに変えられるのが強みです。

ジェンティルドンナ(2014 有馬記念) 騎手:戸崎圭太

ジェンティルドンナ(2014 有馬記念) 騎手:戸崎圭太

印象に残っている馬を聞くと「フリオーソ」と地方時代の馬名を。「競馬を教えてくれた馬」。勝つことに徹しているようで、騎乗時に大事にするのは「馬とのコンタクト」と語ります。騎手としての完成度は「まだ60%」との自己評価。競馬を「たくさんの人に支えられているドラマ」と例える戸崎騎手が、その主役を降りるのはまだ当分先のようです。

  • JRA(中央競馬)と地方競馬とでは、騎手や調教師の免許が異なります。地方競馬の騎手がJRAに移籍する場合は、JRAの騎手免許試験を受けなければなりません。

調教師 斎藤誠

調教師 斎藤誠

新規参入が容易でない調教師という職業で、千葉の酒屋に生まれた斎藤誠調教師は異色と言えます。幼少期から馬の走る姿に憧れ、騎手になることを夢見たという少年が、飛び込んだのは生産牧場。競馬学校に入るまでの3年間、馬の世話に明け暮れて過ごし、「馬には乗れなかったけど、馬を扱うことの厳しさを学んだ大切な時間」が、後の調教師となる礎を築くことになります。

前田厩舎の調教助手を務めていた斎藤さんが、5回目の受験にして調教師試験に合格したのは、師と仰いだ前田調教師が亡くなった翌年、2006年。兄弟子の後ろ盾にも支えられ、斎藤厩舎は開業の日を迎えます。

開業したものの、コネクションの乏しい斎藤厩舎では、大事な馬を預けてもらうための人間関係づくりが不可欠。人と話すことが苦手だった斎藤調教師ですが、馬主との信頼関係を築くために奔走する日が続きます。北海道の牧場に出向いて有望な馬を発掘したり、セリがあれば馬主に同行し助言を送ったり。「一頭の馬、一人の馬主を大切にする」を信条に、年々成績を上げてきました。

ヌーヴォレコルト(2014 オークス)

ヌーヴォレコルト(2014 オークス)

2014年には、伝統のクラシックレースを初制覇。当初は目立たない馬だったという「ヌーヴォレコルト」がオークスで3歳牝馬の頂点に立ち、忘れえぬ感動を厩舎に運んでくれました。「ヌーヴォレコルト」の仔がデビューするのを心待ちにする斎藤調教師。「血統のロマンは競馬の魅力」と語ります。

「開業以来、やめたスタッフがいない」という団結力も自慢。「私は部活のキャプテンみたいなもの」と笑う屈託のない表情は、封建的にも見える競馬社会のイメージとかけ離れたもの。「誰が来ても雰囲気のいい厩舎にしたい。もっとトレセンにも足を運んでもらえたら」と開かれた競馬界を創ろうとしています。

美浦トレーニングセンター

美浦トレーニングセンター

美浦トレーニングセンター

美浦トレーニングセンター

装蹄師 佐々木裕

装蹄師 佐々木裕

装蹄師そうていし」は、馬の蹄の管理を専門的に扱う技術者。伸びた蹄を削る「削蹄さくてい」や、蹄鉄の作製・装着などを行います。蹄鉄は、蹄を保護するために履かせる、いわば馬の「靴」。それによってレース中のケガを減らしたり、馬の能力を引き出したりできるのです。

佐々木裕さんは装蹄師になって3年目。美浦トレーニング・センター所属のJRA職員です。この日は、乗馬用の馬で作業を見せてもらいましたが、普段扱うのは競走馬が中心。競走馬の場合、アルミニウム製の既製品蹄鉄を、馬一頭一頭に合わせてハンマーで叩き、調整していきます。その蹄鉄を密着させるためには、蹄を平坦にする作業が重要で、高い技術力と職人の勘が必要とされます。ハードな肉体労働であることに加えて、一頭あたりの作業時間は30分程度というスピード感に驚かされます。「3年目で初めて競走馬に触っていますが、失敗が絶対に許されないという緊張感が大きいですね」と、ベテランに混じってその実力が試される日々です。

装蹄師 佐々木裕

「競走馬がレースで走るまでには、それを支える色々な役割の人がいます。装蹄師はその一人」。控えめな言葉の中にも、職人としてのプライドが滲みます。

コース管理 二村啓介

コース管理 二村啓介

世界に並んだといわれる近年の日本競馬。生産者や騎手だけではなく、その舞台となる競馬場もまたしかり。「人馬ともに安全な馬場を保つことが私の仕事」と静かに語るのは、東京競馬場で馬場造園の責任者を務める二村さん。日本の競馬を世界レベルに押し上げた、舞台裏の立役者のひとりです。

近年の日本の競馬場では、旧来からの野芝が枯れる冬を前に、寒冷に強い洋芝の種を蒔く「オーバーシード」と言われる手法で、競馬ファンの目を楽しませる鮮やかな緑が一年中保たれています。しかし二村さんがこだわるのは、平坦性、均一性、クッション性。「安全のためにはこの3つが欠かせません」とやはり安全が第一。「すべて手作業。人海戦術です」と語るように、10万平方メートルにも及ぶ芝コースは、平日で55人、競馬開催日には157人の体制で守られているのです。

ダートコースは、大きさが適当で、粒が丸く、硬い、青森県六ヶ所村の海砂だけを使用。大量の砂を洗う作業を行い、劣化した砂は入れ替えるという、途方もない作業を毎年繰り返します。

「この仕事に終わりはないですね」と笑う二村さん。喜びを感じるのは「自分たちが作ったコースで、白熱したレースにお客さんが歓声をあげるとき」。その瞬間のために、今日も二村さんは自分の目と手で、芝の状態を確かめます。

実況 中野雷太 ラジオNIKKEI アナウンサー

実況 中野雷太

大学時代、「ヒシアマゾン」という名牝馬との出会いから、それまで全く興味がなかった競馬にのめり込んだ中野さん。競馬に携わる仕事に就きたい一心で見つけたのが、実況アナウンサーという職業でした。

毎日10時間にも及ぶ特訓を経て座った念願の実況席で、中野さんは違和感を感じていました。「実況席から見る競馬は高みの見物。好きだった競馬が遠く感じられたんです」。その後、学生時代のように地方競馬に日参し、「いろんなものが見えてきた」。そんな日々が、中野さんの実況に生かされています。

「分かりやすいのが一番」と中野さんは理想を語ります。淀みなく紡ぎ出される中野さんの実況は、レースの合間のわずかな時間に出走馬の特徴を頭に叩き込む、鍛えられた集中力あっての職人芸。「自分が実況するレースは絶対に買いません。100円でも買えば、ただのファン目線で見てしまう」と妥協はありません。

記憶に残るレースは「キズナが勝ったダービー。実況を担当しましたが、競馬場全体が武豊騎手の復活を祝福しているのを感じました」。普段は感情を表さない中野さんも「ものすごい拍手です!」と声が一段高くなったとか。

競馬の魅力を尋ねると中野さんは一笑し、「こんな知的なゲームはないですよ。飽きっぽい僕が未だにやってるんですから」と答えてくれました。

実況 中野雷太

わが愛しの名馬たち エピソード発表

クラスエル会員様からご応募いただいた思い出の名馬をご紹介しています。

www.class-l.jp/webmagazine/event/2017/meiba_happyo.html

9月のウェブマガジン限定プレゼント

9月のウェブマガジン限定プレゼント
【1名様】ジョッキー勝負服 チャーム3個セット

ジョッキーの勝負服と競走馬(モーリス、ラブリーデイ、ドゥラメンテ)の写真が裏表に印刷されたチャームです。ふわふわの素材で作られたミニぬいぐるみ仕様です。
サイズ:高さ9cm 幅10.5cm

「モーリス」(2015年安田記念、マイルチャンピオンシップ、香港マイル。2016年チャンピオンズマイル、天皇賞・秋、香港カップ優勝)、「ラブリーデイ」(2015年の宝塚記念、天皇賞(秋)で優勝)、「ドゥラメンテ」(2015年の皐月賞、日本ダービーで優勝)。

ご希望の方は、下記の応募ボタンからお申し込みください。
抽選で1名様にプレゼント。

応募締切 2017年10月1日(日)

  • ご応募は1名様1回までとさせていただきます。
  • 当選発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。
  • 重複応募の場合は無効とさせていただきます。

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